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SaaSの価格は「変わるもの」になりつつあるかもしれない

この記事は「決済を実装した体験談や決済関連(クレカ、QRコード、何でもOK!)の情報を投稿しよう! by PAY Advent Calendar 2025」の投稿です。

2016年ごろから、SaaSの開発や Stripe の社員としてサブスク決済の開発・保守と導入支援などに取り組んできました。その中で、「決済機能・サブスク機能の開発に関わる」際に価格改定からは逃げれないと感じたので、そのへんを簡単にまとめてみました。

決済・サブスクに関わると、価格改定PJによばれる

自社サービスの価格改定PJは2・3回ほどメインの開発者として取り組んだ経験があります。その際にやったことやハマったことなどは、JP_Stripesの資料などにまとめていますので、興味がある方は読んでみてください。

2018年にやったときの資料

この時はオプション料金の値下げに対応するためのPJでした。2018年なので、 Subscription Schedule APIがなかったのか(?)、既存プランの価格変更作業を先送りしているのが資料から伺えます。

サブスクリプションの価格改定、値上げだろうと値下げだろうと、「既存のサブスクリプションレコードを全て変更する必要がある」点において、とてもチャレンジングなPJになりがちです。「特定の年月日で一斉に更新するのか、それとも各契約の更新タイミングで処理するのか」この決断だけで利用する Stripe APIやバッチ処理の仕組みなどが変わります。

そしてPJを進める上でより難易度が高まるのは、「技術的な点だけで決断することができない」ことです。既存顧客への請求金額を変えるか変えないか、そしていつ変えるかという問題は、プロダクトや企業の売り上げに直ちに影響を与えます。また、技術的には一見旧プランを残しつつ新プランと並行させる方法が安全に見えますが、プランの数だけ機能フラグの管理が複雑化するため、結果的に複雑なコードを書かざるを得ないケースもありました。

2025年にやった時のことをまとめたブログ

そして Stripe を経て出戻った結果、また価格改定に挑戦します。今度は中の人として学んだことやユーザーとの会話で感じたことを惜しみなく投下するスタイルで、実働2週間程度にて完了できました。

https://www.digitalcube.jp/use_case/17498/

2018年の経験などもあるため、既存プランの扱いや切り替えタイミングなどは事前に経営層が決断するように調整を行いました。今回は契約期間の更新タイミングで新プランに移行するため、Subscription Schedule APIという将来のサブスクリプションデータ変更を計画する API を採用、時間経過をシミュレーションできる「テストクロック」を利用して意図したとおりのプラン変更が実施されるかの検証もテストフェーズで実施しました。テストフェーズでの時間遷移シミュレーションの作業が煩雑だったため、MCPサーバーをOSSで開発・公開し、Claudeを利用してテストを進めるなどの効率化も行いました。MCPサーバーはProduct HuntでWeekly 15位以内に一度入り、upvoteが140を超えるなど、予想外の反響も得ることができました。

Stripe Testing Tools MCP Server - Supercharge Stripe testing with time simulation | Product Hunt

ここまでやっても、「Subscription Schedule APIで更新するSubscriptionデータは、抜け漏れなく現状データを反映させる必要がある」という仕様を見落としたことで、metadataの欠落が発生し、すべてのサブスクリプションデータを目視とスクリプトで再調査するハメになるなど、無事故で終わることはできませんでした。

価格改定は不可避な流れかもしれない

JP_Stripes Connect 2025というユーザーカンファレンスでも、モデレーターとしてSaaSの収益に関するセッションに参加しました。その中でも、登壇された各社が口を揃えて「価格改定はやらないといけない」と発言されており、中には「1年に1回価格を見直しするルールにしてもいいかもしれない」というコメントまでありました。

なかなか開発者やオペレーションスタッフからすると、「また、値段変えるの・・・?(開発 / サポート大変になるやん・・・・)」と思いそうです。ただ、どうやら「価格の変更」は定期的に発生するもの、それも年単位もしくはそれより短い周期で起きる可能性もある。と思うようにした方が慌てなくて済むのかもしれません。

AWS re:invent 2025のセッションアーカイブを眺めていると、Stripeに買収されたMetronome社のセッションを見つけました。セッションは「従量課金型サブスクはインフラとして扱うべき」というテーマで、「価格も今やクラウドインフラのように高頻度で変更されるものになりつつある」ことが紹介されていました。

実際の事例として、OpenAIが1年間に10回も価格を変更しているというエピソードも出てきました。すべての価格ではなく、複数のプロダクトが何回かずつ変更した・・・ということだとは思いますが、サブスクの組み込みや運用を経験した身としては、なかなかドキドキする数字に感じます。

RevOps や PriceOps などの用語がうまれ広まりつつあるように、サブスクリプションの料金についても、インフラがオンプレからクラウドへと変化したことでアジリティが高まったような現象がこれから起きるのかもしれません。

https://priceops.org

Amazonのジェフ・ベゾス氏は「10年経っても変わらないものが重要だ」と語り、Amazon Japanの初期メンバーでもある小島氏は「不可避な流れとどう向き合うか」について各所で語られています。

プロダクトやサービスの料金のような、「変わらないもの、そういうものだと思っていたもの」に向き合い、起こるかもしれない変化と変えてはいけない根幹を見極める。決済やサブスクリプションなど、ビジネス・プロダクトの根幹に携わることになる開発者は、これからより多くの視点・視座でプロダクトに向き合うことを求められるのかもしれません。